発病まで・・・

2011年3月(土)、私の誕生日だったので忘れもしない。
午後、夫とフリスビーで遊んでいたトラの異変に気付いたのは私だった。
夜、何気に元気がないトラの顔を覗くと左目がショボショボになっていた。
フリスビーで遊んでいる時に負傷したのだと思った。
翌日日曜日はかかりつけ医Aが休診のため、ネットで休日診療をしている動物病院を探し、家から一番近い病院Bを訪ねた。



受付に誰もいない。
「すみません」と2回ほど呼ぶと奥から「少しお待ちください」の返事が。
20分ほど待ったあと、前の患者さん(柴犬の子を夫婦で)と入れ替わりに診察室に呼ばれる。
診察室は薄暗く薄汚い。
すすけた流し台を見て夫が「大丈夫か・・・」とつぶやいた。



獣医師は比較的若い先生。
「昼間フリスビーで遊んでいた」という私の説明に角膜検査をされた。
検査の結果、黄色い着色の反応が出たため「角膜損傷」と診断される。
ここでは初診であることを尋ねられたため、かかりつけ医が本日休診日である旨を話す。
かかりつけ医を聞かれたため答える。
「あ、**先生ですか、これでよくなると思いますが、もし何かあったら**先生を訪ねてください」
とのこと。


このB病院で私の友人の子(パピオン)の母親犬が、狂犬病ワクチン接種後急死したことを後に知る。



薬は点眼薬2種類に膏薬1種類、点眼薬の一つは容器が入れ替えてあるため不明、
一つはビタミン、飲み薬は抗生物質
目のショボショボはすぐに治まったが、飲み薬が切れてしばらくすると再発。
かかりつけ医に行く。



今までの経緯を説明する。
検査はなく、引き続き角膜損傷の治療が3か月に渡り続く。
後に考えると、抗生物質の飲み薬が切れると治まっていた症状が再発したようだ。



3度目の再診の際、トラの目を見た先生は「あっ!」っと言って明らかに驚いていた。
そして「この子は生まれつき目が弱いかも」と言われた。
なかなか治らない状況で、異物があるのではと局部麻酔をして下瞼をえぐられたり、
何週間もエリザベスカラーをつけさせたりした。
目をいじらないように瞼を縫い合わせるという話もあった。
点眼薬はパピテイン、ルポック(抗生剤)、ステロップ(ステロイド)と次々に変更。
内服薬は抗生剤。



ステロップを処方する際、付添いの看護師が「先生!」と止めた。
先生は「このまま放っとけないだろう!」というやり取りあり。
ステロップ点眼薬処方後、抗生剤の内服薬が切れても目のショボショボの再発なし。
3月初旬から続いた左目の治療は6月初旬に終了した。



5月の集団狂犬病ワクチンをパスしていたため、6月半ばかかりつけ医Aで接種しようと
訪れたところ、市からのハガキがないとできないと言われる(夫談)。
ハガキを失くしていたため再発行を依頼し、6月下旬に接種。
後に想像することだが、かかりつけ医の先生は狂犬病ワクチンを避けたいと思っていたのでは・・・。



7月に入り、脳炎の諸症状が現れる。
黄色い胃液を吐く。
家に帰ると多量のよだれ跡を発見。
暗がりを好む。
伏せから立ち上がる時、「キュン」と小さく鳴いたことがあった。
後に、すべてが脳炎の兆候であったことが分かる。
愚かな私は、この時点では何か不安を感じながらも、あまり気に留めていなかった。



7月13日の夜、決定的な発病。
左目が大きく見開いたまま見えていない。
脚が滑る。
頸が右に曲がったまま。
右旋回する。



14日(木)朝、角膜損傷がなかなか治らなかったこともあり、かかりつけ医に不信を抱いていた私は、
以前から友人に薦められていた動物病院Cを訪ねる。



受付で過去の治療等について聞かれる。
この段階で、近所のかかりつけ医Aにかかっていたことを告げたのは私の失敗だった。
診察室では院長とその奥さんが対応。
左目が見えなくなったという話を受けて、ティッシュを千切ってはヒラヒラと落とし反応を診る。
その他は眼振の検査なども一切なし。
後に夫が、明かにこちらでは診療治療をするつもりはない様子を感じたと言った。



ティッシュの検査の後、他県の眼科センターDに行くよう勧められ紹介状をもらう。
夫と直ぐに行く用意があったのだが、本日は休診日とのこと。
明日、眼科センターに電話をして予約を入れるよう院長の奥さんから言われる。



その後出勤、夕方自宅に戻るとトラの状態は変わらず。
明日まで待つことはあまりにも不安だったため、眼科センターに電話を入れてみると
なんと本日は休診ではないという。



予約はずっと先までいっぱいだったが、時間を決めず飛び入りということで何とか
16日(土)に入れてもらう。
受付に症状を説明すると先生に伝えられた。
獣医師で検討したところ神経性の可能性が大きいので、こちらに来る前に脳のMRI検査を
して結果を持ってくるのが望ましいと言われる。
(この病院では電話の状況説明で脳炎の可能性が高いと既に診断されていた。)
ということは、明日15日(金)にMRI検査をしなくてはいけないことになる。



C病院に連絡しその旨伝えると、県内のMRI設備がある病院Eを紹介される。
紹介された電話番号に電話をすると個人名で返答があり、応対も病院とは思えないほどよくない。
後に分かるが、教えられた電話番号は病院ではなく自宅の電話番号だった。



翌日のMRI検査は予約で埋まっているということで、とりあえず診察に来るよう言われる。
今思えば、まず診察に行くのは当然のことだった。
けれど、MRI検査は麻酔等のリスクがあり簡単なものではないことに無知だった私は、
眼科センターに行く前に何とかMRI検査をしないといけないと思い込んだ。
切羽詰まった気持ちで、再びC病院に電話する。



電話にでた院長の奥さんに経緯を伝え、他にMRI検査ができる病院を紹介してもらえないか
お願いをする。
実は先日からネットで調べていたのだが、県内の大学病院に獣医科があり、
かかりつけ医の紹介がある場合のみ診察を受けられる。
何とかここに辿り着けないかと思っていた。



ところが、奥さんに少し待ってくださいと言われ待っていると、院長が「もしもし」と低い声で
出たきり無言状態。明らかに異様な空気を感じた。
怒っている。
私は心臓をバクバクさせながら、また繰り返し経緯を話した。



院長は低い声で
「E病院も神経科のいい病院、まず診察に行きなさい」
「あまりうちに関わらない方がいいよ」
「わかったね」



その時はっきり分かった。
かかりつけ医のA病院は地元で最も長老古参の獣医師。
狭い田舎の地域でA病院の獣医もC病院の獣医も周知の関係。
獣医の間で(よい言い方をすれば)仁義があるのだ。
そういえばB病院もそうだった。(まるでどこかの裏の世界のようだ)



このC病院とのやり取りはショックが大きかったため、しばらくは夫にも姉にも話せなかった。
しかし今は刻一刻を争う。
もう選択肢は一つしかなかった。
かかりつけ医Aに戻ること。
すぐに連れて行った。



かかりつけ医の先生は症状を見て明らかに動揺し、この子は白内障の症状がでていると言った。
私は????
その後、神経性の可能性もあるので薬で様子を診ると言って注射を打ち、飲み薬を出され、
一週間後に来るよう言われる。
眼科センターやMRI検査のことは言い出せなかった。
受付で「この薬は何ですか」と聞くと、奥から「血管を広げたり、いろいろ!!」と
先生の返事が返ってきた。
今では粉末のステロイド(多量)で、注射もステロイドであったことが想像できる。



何が起こっているのか、何がなんやらわからない診察だったが、これがトラを助けることに
なったと思う。
眼科センター予約の16日まで何の処置もしていなかったら助からなかったかもしれないので。



16日(土)眼科センターDを訪ねる。
獣医師をはじめ受付など、凛とした病院らしい病院だった。
角膜損傷の治療をしていたことなど経過を説明する。
ステロップ(ステロイド)の点眼薬をしていたことを話すと、若い獣医師は眉をひそめた。
角膜損傷の治療でステロップはありえないことを知る。



検査の結果、角膜も網膜も異常なし、視神経の萎縮が失明の原因。
視神経の萎縮は脳の病気によるもの。
この段階でGMEか脳水症ではないかという診断を受ける。
院長先生の説明では、一時的によくなっていたのはステロイド系の点眼薬が体内に吸収され、
炎症を抑えていたのではないかということだった。
角膜検査の際、黄色く反応があったことを話すと、正常な角膜でも黄色の着色はあるとのこと。



MRI検査設備のある病院を紹介され、自宅に近い病院は14日に電話をしたE病院だったので、
斜め切りのMRI検査ができるという他県のF病院の紹介を受ける。



C病院宛の結果報告書を預けられるが、C病院は実はかかりつけ医ではなく迷惑そうであった旨話すと、
先生は「そうですね、いきなりこちらを紹介されたんですからねえ」と言って理解を示し、直接こちら
から郵送しましょうと言ってもらえる。



F病院に19日(火)の予約を入れる。
MRI検査、髄液検査の結果、GMEと診断される。



脳炎という結果はショックだった。
ならば、目の病気だったほうがよっぽどましだったのに。
しかしやっとここまでたどり着いた。
ここまでたどり着いたのだが、かかりつけ医をなくした私たちは途方にくれていた。



このF病院は高速を使って2時間という距離で、かかりつけには無理だ。
このままでは動物病院ジプシーになってしまう。
動物病院は山のようにあるというのに、何か深い霧に囲まれ、この子を助けてもらえる
ところはどこにもないような気がした。



担当獣医さんに、紹介を受けた病院はかかりつけ医でなく迷惑だったかもしれない旨話すと、
「行き辛いところにはもう行かなくていいですよ」と言って、こちらも検査結果を2部用意して、
一部は私たちに、もう一部は直接C病院に郵送する手配を申し出てくれた。



どこか病院を紹介してもらえないかお願いすると、院長に取り次いでもらえた。
こちらで現在のG病院と、14日にMRIの件で電話を入れたE病院を紹介される。
院長と大学が同期だったり、以前ここで勤務していたりという繋がりだそうだ。
G病院については現在も関わりがあるため触れないでおきたい。



「あまりうちに関わらない方がいい」と言われたC病院。
切羽詰まっていたので私にも失礼があったのだと思うようにしていた。
数か月後、行きつけの美容院の店長さんからこんな話を聞いた。



お客さんの犬(小型犬)が軽い日射病になった。
病院に連れて行くと注射を打たれた。
まだほっこりしなかったため、数日後に再診に行くと注射を3本打たれ入院となった。
翌日の朝、病院から死んだという連絡を受ける。
原因や状況の説明は全くなしだった。
近所の人たちは「昨日まで元気だったのに」と言って驚いた。



後日、もう使うことのない余ったフィラリア予防薬を返しに病院に行った。
代金をもらおうとか文句を言おうとかそういうつもりは全くなかったのに、受付で院長の奥さんに
「何しに来た」という顔で見られ、病院の奥がバタバタしていた。
そして、けんもほろろに追い返されたという。



想像だが、フィラリア予防薬の返却を口実に訪ね、死亡の原因をもう一度聞きたかったのだろう。
何でもいいので知りたかったのでは。
朝、突然死にました、で済まされてはあまりにも納得できない。



私は恐る恐るどこの病院ですか?と尋ねた。
店長さんは「C病院だって」と声を潜めた。
院長とその奥さんの顔が浮かんだ。
この院長は新聞に折り込まれるタウン誌にコラムを載せている。



現在思うことだが、最初のかかりつけの先生は良心的な獣医師だったかもしれない。
生後3回接種とされているワクチンを2回だけにしようと言われ、狂犬病ワクチンも
「まあこれは来年集団でいいやろ」と言って、病院では打ちたくなさそうだった。
8種9種ワクチンも多い中、6種でいいと言われた。



昨年6月の狂犬病ワクチン接種も最初は断られた。
夫が「市からのハガキがないと打てないんだって」と言って帰ってきた。
ハガキが必要なのは確かだが、先生は病院では打ちたくなかったのかもしれない。
なのにわざわざハガキの再発行を持っていった私がバカだった。
獣医師の立場で、狂犬病予防接種を打たなくていいとは言えないだろう。



姉の犬は集団接種の際大暴れだったため、明らかに打つマネだけだったと言っていた。
友人も同じことを言っていた。
打つマネだけにしてくれればよかったのにと今更ながら思うが、姉や友人の犬のように
毛深くないので「マネ」は無理かな。
笑い話にもならないが。



ただ先生は昔のタイプだった。
脳炎と気づきながらも、とっさに素人でもウソとわかる白内障でごまかそうとした。
少し昔の時代やお年寄りならごまかせるかもしれないが、このネット社会、素人も色々な情報や
知識をつけている。
信頼関係を築くのは難しかった。



現在の狂犬病ワクチン接種率は約40%らしい(Wikipedia)。
(理由は分からないが、イギリス、オストラリア、ニュージーランド、スイスなど多くの清浄国は
狂犬病ワクチンの義務を廃止しているそうだ。)
混合ワクチンに関しては5種から8種、9種とどんどん増えている。
人間の赤ちゃんでもそんなに接種しないのにどうして犬だけが毎年しなければいけないのか。
人間の赤ちゃんのワクチンについても厚労省と製薬会社の利権絡みで問題になっている。
そんなことを昨今知るようになった私は本当に無知だった。



猫のフィラリア予防のことが、病院の待合室のTVから延々と流れていた。
不要としている獣医師(http://www.susaki.com/qa/48.html)もいるが、最近では猫のフィラリア予防や
農薬を巻きつけているようなものだというフロントラインが普通になってきているらしい。



これらについて医学的な知識がないので云々言えないが、
ペット産業や業界は次々と色々なものを広告し飼い主である消費者を煽る。
利害関係があることには、どんな社会や産業にも闇がある。
飼い主はそれらの情報の真贋を考えないといけない。
ワクチンで死んでも、動物病院で突然死しても責任は問われないから。
人間ではありえないが、犬や猫だから。



TV番組「お宝探偵団」に出場した獣医師が家族も親戚も獣医で、
司会者に「どうしてそんなに多いのですか」と聞かれると、
「だって人間は大変じゃないですかあ」と言って笑っていた。
正直といえば正直だが、人間の医者ではありえない軽い発言である。
真摯な心ある獣医師が聞いたら激怒しそうだ。
でも結局こういうことなのかもしれない。動物だから・・・・。
犬や猫の一方の環境は、保健所で毎年何十万匹が殺処分されるというものだ。



狂犬病は怖い病気だ。発病すれば必ず死ぬという。
狂犬病ワクチンや混合ワクチンを全く否定する勇気は私にはない。
かといって全面肯定にも疑問が残る。



飼い主が無知だと私のように後悔することになる。
3月生まれのトラは、毎年混合ワクチンと狂犬病ワクチンの接種時期が近かった。
MRI画像には、接種されていた頸の部分にはっきりとコブが写っていた。



去勢はホルモンのバランスを崩すという。
風潮に踊らされて去勢は飼い主としてのマナーだと思っていたが、ホルモンのバランスと
アレルギーとは無関係ではないらしい。
トラを去勢させる時、友人と夫が反対したのに・・・。



本格的な発病前に、毎年少しずつ何かの異変があった。
フレンチブルドッグひろば」で同じような症状の子の相談があると胸騒ぎがする。
今年5月、虹の橋を渡ったまるちゃん(3月生まれ♀)(http://malu0324.blog50.fc2.com/

の経緯もトラと似ていた。



一昨年の秋は右目がショボショボになり角膜損傷と診断された。
これも長引いて、パピテイン(非抗生剤)の点眼薬と抗生物質の飲み薬で治療していたが、
飲み薬が切れるとすぐに再発した。
最終的に、ルポック(抗生剤)の点眼薬と抗生剤の飲み薬でやっと治まった。
これも脳炎と関係はなかったのだろうか・・・。



結局のところ原因は藪の中だが、あれこれと後悔することがいっぱいだ。
自分の身に起こってはじめて気づいたり考えさせられることばかり。



フレンチブルドッグは病気の巣窟とも言われている。
今ではTVCMにも頻繁に使われる犬種だが、6年前はまだそれほど見かけなかった。
はじめてTVドラマで見かけた時、なんて可愛いんだろうと思った。
好みは人それぞれで、ブサ可愛い(ぶさいくで可愛い)フレブルを好まない人もいるようだが、
私にはストライクだった。



犬を飼うならお金を出してじゃなく可哀そうな子の里親になった方が・・・
という姉の意見を無視し、ブリーダーさんから大枚で購入した。
ネットでフレブルについて調べ、病気が多い犬種ということも知っていたが、
自分の子がそうなるとは想像しなかった。



ネットで調べたり本を読んだりして、ある意味浮かれていた。
そしてその情報通りでないといけないと思い込んだ。
生後、混合ワクチンを3回接種する。
去勢手術をする。
狂犬病ワクチンを接種する。



一部の人が去勢のリスクについて書いていた。
人間の赤ちゃんに将来腫瘍のリスクがあるかもといって身体にメスを入れますか?
というものだった。
今でも覚えているのは、きっと印象に残っていたからだろう。
けれど私は、ペット業界、産業の情報にドップリと浸かっていた。
TVや雑誌で何か情報を得る度、そうしないといけないと思い込んだ。



かかりつけ医は狂犬病予防接種を打ちたくなかったようなのに、
私は役所からハガキを取り寄せ、義務を果たしているといった風に持って行って接種させた。
本当に心からこの子のことを思っていたのか・・・今では自分でも疑問だ。
ペットを飼っているということに浮かれていたのでは・・・。
今年の春、ÅBCの病院からそれぞれワクチンやフィラリア予防の案内ハガキが舞い込んだ。



私のことを信じて私にべったりな子。
澄んだ瞳でいつもじーっと見つめる。
その度に愛しさと後悔で胸が塞がる。



抱っこをせがんで椅子によじ登ろうとする子。
発病以来、甘えんぼさんになった。
病気による不安がそうさせているらしい。



昨年7月13日、本格的な発病からもうすぐ一年。
この子は夏を越せないかもと、気が緩むと涙がこぼれたあの日。
不安な日々は変わらないが、現在時々軽い発作はあるものの
薬を服用しながら元気にしている。



これが発病まで・・・


思い込みや偏見があるのでは・・と言われるかもしれないが、個別的なものを批判する意図はなく、
自己の反省と、うまく表現できない漠然としたものへの警鐘であると察してもらえれば幸いである。
少しでも警鐘になることを心から願って。