焼き肉
少し前のことだけど今月8日の水曜日、仕事中に携帯が鳴った。
静かな空間の中、鳴り響く黒電話の着信音はどうも私の携帯っぽい。
恥ずかしいので素知らぬ顔をして放っておいて、あとで留守電を聞いたら
母からで、「焼き肉食べにいこっ。」だった。
その夜、両親と夫と4人で焼き肉を食べに行った。
その焼き肉については「カメオンの言いたい放題」№19の5月12日にあるように
母の手術前に行ったっきりだ。
その日仕事で疲労していたが、なるべく楽しい雰囲気になるように最後の力を振り
絞った。帰宅したらバタンキュー。(焼き肉は大変おいしゅうございました。)
でも、やっと切ない焼き肉の想い出から解き放たれた。
だから、9月8日は焼き肉記念日。(サラダ記念日のパクリ)
【カメオンの言いたい放題】 №19 2009年5月12日より
あざを隠して暮らしているが、あざがあること自体には何の罪もないと思っている。
けれど、それに伴う副産物では引け目を感じることがたくさんある。
たとえば・・・、スッピンの時には宅配さんに居留守を使う。
汗して働いている宅配さんを窓から覗いて心が痛む。
郵便受けに不在票をそっと取りに行き、都合の良い時間帯もしくは日にち指定の連絡を入れる。
夫が在宅の時は、トイレ中でも入浴中でも「宅配さん来た!早く早く出て!」と言って、
夫に出てもらう。
こんな嫁おらんやろ・・・。こんな嫁うっとうしいだろうなぁ。よく我慢してくれているもんだ。
あざがあることについて夫に引け目を感じることはないが、そのために夫を煩わせることに
ついては罪悪感を感じるのである。
年に数回、休日の午後、母から電話がかかる。「**さ〜ん、今晩焼肉食べに行かない?」
電話の向こうのうれしそうな声にイラッとする私。スッピンで伸び伸びする休日。
たかだか2時間ほどの外食のため、もう1日も終わろうとしている時間に、首に化粧など
したくないのだ。
「ごめん、もう晩ご飯の準備しちゃってるから」もしくはストレートに「化粧めんどうだから・・・・」
と断る。母は「ほうかね、ほうかね、ごめんね」と明るく言いながらも残念そうだ。
思い返すと、この母の焼肉の誘いを一度も受けたことがない。
これはあざのせいだけではなく、私のものぐさのせいでもある。
けれど、ものぐさを助長させているのもあざなのだ。
母の体調は昨年の夏頃からぐっと悪くなっていた。少しずつ訴えていたのに私は全く無頓着だった。
1年で10キロも痩せていった母の焼肉の誘いも、やがてなくなっていった。
外科手術を前に一旦内科を退院した。手術前に母を励まそうと、最後の週末に焼肉屋に誘ったが、
母は1切れしか食べられなかった。
手術後もまた更に痩せ、何食べても苦くて砂を噛むようだと言い、箸を置いた。
「**さ〜ん、焼肉食べにいこっ」
焼肉屋さんは家の近所でトラジとの散歩コースでもあるが、目にすると母の声が聞こえてくるようで
胸が痛い。
だから夕方になるといい匂いが漂ってくる「焼肉散歩コース」にはもう行かない。
よだれじゃなくて、鼻水が出てしまうから。